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フィードメーター - 暗黒図書館 -Dark Side Library-

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青い空の下で

十章

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 君は途方に暮れていた。そして疲れ切っていた。
 考えようとしても上手くいかない。
 頭は重く、中に石が詰まっている様だ。

 君は新しく増えた三つの死体に近付こうと歩を進めた。
 赤い服を着た水野の死体。その顔には何の表情も浮かんでいない。
 ただ何事もなく前を見詰めているようにしか見えなかった。
 残る二つの死体はどんな顔かも分からない。
 二人とも黒い袋を被ったままだった。
 だが服装は違っている。青い服を着ている方と、黄色い服を着ている方だ。
 二人の違いは、被っている袋に書かれた記号と服の色だけだ。
 いや、三人とも違いはないのかも知れない。
 記号と、赤と青と黄の違いだけだ。

 君は頭に鋭い痛みが走るのを感じた。
 額に手を当て痛みが去るのを待った。
 熱い日差しが肌を焼いている。
 早くここから抜け出さなければ。
 だが、意に反して体はベンチへと向かっていった。
 なぜそうしたのかは解らない。一目見ておくべきだと感じたからかも知れない。
 理由が何であれ君がそれを見つけたという事実は変わらない。
 そこには封筒があった。今までと同じ、手記がは入っていた封筒だ。
 それは水野の死体の下にあった。封筒の一部が死体の下から覗いていた。
 君は封筒を掴み引き抜いた。封筒は何の抵抗もなく手に入った。

 君は封筒を見詰めていた。理由などは無かった。ただ見詰めていた。
 誰がこの手記を書いたのかは分からない。『私』と称する人物が実在するのかどうかと言えば、それは怪しいと答えるしかない。公園に居ると書いてあるが、そんな人物は公園中を見廻っても存在しない。『私』とは架空の人物だとするのが妥当だ。
 君は戸田家にあった実験室を思い浮かべた。あの実験室にあったファイルの中に五年前の事件に関する記録があった。そこには飯沼草二という名があった。罪の全てを飯沼草二に押しつける計画が書かれていた。もしかすると『私』とは飯沼草二ではないのか。
 しかしそうだとしても問題は解決しない。『私』の行動は不可解だ。正確に言うなら何も行動しないのが不可解なのだ。
 『私』は世界の崩壊を止めようとしているらしい。しかしその為に何ら具体的な行動をしていない。ただベンチに座ってテレビに語りかけているだけだ。

 不可解なのはそれだけではない。
 最初の手記は水野から直接に君へ手渡されたのだ。
 水野は封筒の中身が何なのか知っていたのだろうか。彼等の信仰を真っ向から否定する文章を彼等自身から受け取ったのは、どう受け止めれば良いのか。
 そして一枚だけ補足として追加された手記はどんな意味があるのだろうか。
 戸田兄弟の服装と戸田宗司が高台の家に潜んでいるという情報を追加する行為にどんな意図があるのか。

 これらの手記は誰かに見られる事を想定して書かれたものだ。
 そして最も人目に付く場所に置かれている。それは死体の側だ。
 公園には誰も目を向けない。集団に属する者達に対しては絶対に見つからない場所だ。 しかし外から来た者にはそんなルールを守る必要は無い。死体と手記を確実に見つけるだろう。死体の側に置いておけば手記は間違いなく目に付くはずだ。

 君は苦笑した。
 なぜこんなにも悩まなくてはならないのか。
 まずは警察へ通報するべきだ。
 しかし君は酷く疲れていた。
 立っているのがやっとな程辛かった。
 既に気力も尽きていた。
 交番はどこにあるのだろう。
 君は辺りを見渡した。
 日差しが強く地面を焼いている。
 公園の中は太陽からの光を受けて色鮮やかに輝いていた。
 その反面公園の外は言いようもない暗い影を落とし、黒い闇となっていた。
 その闇は硬質で全てを拒絶している様に思えた。
 体が思うように動かない。今はただ休息をとりたかった。叩き付けてくるような日差しを避け、体を休めたかった。
 何処か日陰の中へ行かなくては。公園の隅に木が二本生えている。大きな木ではないが人一人休むには充分な大きさだった。
 君は暗い木陰へと入っていった。

                       *

 私は空を見上げていた。
 空は原色の青色に塗り替えられている。
 空は明らかに硬質な実体を持っていた。
 実体を持つ空は自身の重量に因りギリギリと軋む音を立てていた。

 公園内に目を戻すと、嫌でも壊れたテレビに目が向いてしまう。
 ブラウン管や外装のプラスチックも念入りにたたき壊しただが、それでもまだ元はテレビであると推測するのは容易だ。
 だが、これだけ壊せば十分だ。
 この残骸はもうしゃべり出す事はないだろう。
 公園の外の世界は青い毒に覆われている。
 青い毒は公園の外の世界を押し潰すだろう。
 もちろん公園の中も例外ではない。
 私には今、外の世界で何が起こっているのかを知る術はない。
 だが、やるべき事は全てやったのだ。

 いや、本当に手を尽くしたのだろうか? 私は不安を覚えた。
 全てが思い通りに行くはずがない。何か予想外の出来事が起こっているのではないか。
 私は今すぐにでも公園から出て外の世界では何が起きているのか確認するべきかどうか思考を巡らせた。しかしそれは答えのない問題だ。知りたければ外に出るしかない。だが今は外に出られない。外は余りにも多くの危険が潜んでいる。。

 私は公園の外に出られない。出たとしても行けるのはせいぜい集会所までだ。それ以上は無理だった。外の世界はとても耐えられない、危うい世界だ。
 そう、外の世界は危ういのだ。世界の脆さに殆どの人が気付いていない。すぐ頭上に迫っている青い毒に誰も気付かない。曖昧な危機感を持っていても具体的な危機には目を向けようともしないのだ。
 青い毒の浸食は始まっている。誰もが曖昧ながらも危機感を憶えるほどには。
 このままゆっくりと浸食されるのか。それともダムが崩壊するように一気に流れ込むのかは分からない。どちらにしても崩壊は避けられないのだ。

 私は身を屈め、ベンチの下を手探りで探していった。見つけるのに大した苦労もない。求めている物はすぐに手の先に当たった。それを掴んで引き上げた。
 何の変哲のない黒いブリーフケースだ。
 私はその中から白い封筒を取り出した。
 幅90センチ、高さ20センチほどの普通の封筒だ。
 表には切手か張られており、住所と受取人の名が書かれている。
 そこには飯沼草二と記されていた。
 差出人の名はどこにも無かった。。
 それ以外、何の変哲もない手紙だ。
 内容は解っている。何度も読み返したからだ。いや、わざわざ読み返すまでもない。素っ気なく短い文章が並んでいるだけだ。憶えるのも容易い。
 書いてあるのは日時とアパートの住所と部屋番号、そして内密に話がしたいと言う言葉。この事は誰にも知らせてはいけない。この話は惣一と二人だけの時でも出してはいけない。何度も念を押すように、決して誰にも気付かれてはならないと書いてある。そして最後には差出人として後藤惣一の名があった。

 指定された日時は五年前の事件の前日。正確には死体が発見される前の晩、殺害時刻に近い時間だ。住所は勿論、事件のあったアパートのものだ。
 初めてこの封筒を手にした時、すこし困惑したがさして気に留めずしかるべき手を打った。今に思えばそれが運命の分岐点だったのだろう。私は間違えなかった。もし不適切な行動を起こしていたら全ては今よりましな状況になったかも知れない。
 私は考えを払うように頭を振った。今更悔やんでも仕方が無い。それよりも今どうするかが大事だ。

                       *

 君は公園の隅に申し訳程度に立っている木を背にして座り込んでいた。
 申し訳程度と言っても、降り注ぐ日差しを避けるのには十分だった。
 君は目を瞑っていた。少しでも眠りたかったからだ。しかしいくら経っても眠りにはつけなかった。なぜ眠れないのかそれが不思議だった。これ程疲れているならすぐにでも眠れそうなのに……。
 風はまったく無い。物音どころか虫の音もない。今なら蝉が鳴いていてもおかしくないのに、辺りは静寂が支配していた。

 静かなのは公園の中だけだろうか。君はふと想った。この町にはもう誰も──いや、何も無くなったのではないのか。君を残して全てが去っていったのでは無いのか。そう、全ては帰ったのだ。何処へ? もちろんエデンの園へだ。
 君は目を開けた。そして公園の中を見詰めた。相変わらず音はしない。だが音以外の物なら確かにある。地面に手を当て力を込めて握り締める。手には確かに土の感触がある。小さな石が手のひらの当たって痛みを感じさせた。確かにここに有る。痛みは石が実体であると照明している。更に手を握り締め、痛みを貪欲に味わった。
 まだ足りない。君は勢いよく立ち上がった。さっきまで体の自由を奪っていた疲労も今では心地よい苦痛となっていた。痛みが証明してくれる。君自身が実在すると教えてくれる。苦痛こそが生きていると実感する為の最良の薬だ。

 君はベンチに近づいた。そこには四体の死体がある。ベンチの上の死体は既に調べていた。残りの三体は十分に調べたとは言い難い。もう一度確認する必要がある。
 調べると言ってもたいした事はできない。外見を観察するだけだ。
 三体の死体はどれも胸にナイフが突き立てられている。それは同じだ。
 違う所と言えば黒い袋だ。二つの死体は黒い袋を被っている。袋には記号が書かれており、それは『硫黄』と『塩』を意味する記号だ。残りの死体は袋を被っていない。おそらく『水銀』の記号が書かれた袋を被っていたはずだ。そしてこの死体は間違いなく水野だ。
 しかし、それはおかしい。高台にある家の三階で水野に出会ったのだ。そしてその後、屋根の上を走って完全に最短距離でこの公園までやって来た。しかし公園に付いた時には既に水野を含む三つの死体が置かれていた。どうやって移動したのか。君と同じように屋根の上を通ったのではない。もしそうなら君は気付いたはずだ。君の他に屋根の上を通った者はいなかったのは間違いない。ならばもっと早い移動手段があったのか。君は少し考え込んだが、これ以上追求するのを止めた。考えて分かる事ではない。実際に調べるのが確かだからだ。

 君は死体を観察しようと努めたが、素人に分かる事などほとんど無い。
 それでも何か手掛かりになりそうな物を見つけようと目を凝らした。
 見つける物が何か分かっているのなら探すのは比較的に容易だ。しかし何を見つければ良いのか解らない物を見つける場合はどうすればいいのか。その場合、答えが目の前にあっても気付かないだろう。
 しかし、気には何か違和感を感じていた。
 漠然とした違和感が君に纏わり付き、言いようのない不安を掻き立てる。
 不安がじりじりとした焦りへと変わろうとした時、君の口から言葉がこぼれ落ちた。
「青か……」
 そうだ。服の色だ。あの三人の内に青い服を着た者はいなかった。赤と黄色と白い服だったはずだ。
 円に横線が入った記号の描かれた袋を被った男は白い服を着ていた。しかし、今ここにある死体は青い服を着ている。
 それに皆、返り血で汚れていた。しかし、ここにある死体には返り血と言えるものは付いていない。有るのは自らが流したと思われる血の跡だけだ。

                       *

 私に出来ることはもう無い。後は結果を待つだけだ。
 計画は失敗に終わる。それは間違いない。
 本来あるべき世界など存在しない。
 帰るべき完全な世界など夢でしかないのだ。
 夢から覚める時は必ず来る。
 何時までも夢の中で微睡んではいられない。
 否応なく夢から引き剥がされるだろう。
 その時、現実と向き合う事になる。
 恐ろしい現実とだ。

                       *

 何時までも公園の中で考え込んでいても仕方がない。
 君は公園を後にし、集会所へ向かった。
 集会所は既に中を検めている。その時には何も無かった。何もかもが無くなっていた。
 壁に掛けられていたスクリーンも、天井に取り付けられていたプロジェクターも、無くなっていた。二階も覗いてみたがそこにも何も無かった。元々何も無かったのか。全て持ち去ったのか。それは分からない。
 分からないから知りたい。そんな欲求が君を動かしていた。
 もう一度、調べ直したい。それが君の求めるものだ。
 何か新しい事実の発見を目的としていない、ただ調べるという行為自体に魅入られていた。目的ではなく、手段に溺れていたのだ。
 君は集会所の玄関前で立ち止まった。手段に溺れる歓びと、心地よい苦痛にその身を震わせていた。引き戸を開けて中へ一歩踏み込んだ。外の明るさに慣れた目には家の中は言いようもなく黒い塊として写った。だがそれも一瞬の事だ。
 すぐに目は闇に慣れた。
 そして君の希望はあっけなく消え去った。

 有ったのだ。
 手段を行使するまでもなく、目的は見つかったのだ。
 玄関から三和土へ入ってすぐの廊下に当たる場所に、いくつかの大きな封筒が置かれていた。
 君は震える手で、それを一つずつ手に取っていった。
 全部で四つある。手元にある分を加えれば七つだ。
 おそらくこれで全部だろう。
 根拠はないが、君はそう確信していた。
 これが答えだ。
 もう家捜しする必要など無い。
 全ては解らないが、方向は見える。
 それだけで十分だ。

 君は顔を上げ、集会場の中を見渡した。
 薄暗く無音の空間が広がっている。
 窓は塞がれてはいるが、隙間から光が差し込んでいた。
 その光の筋は舞い上がる埃に因り、形を成している。
 埃が動くに合わせ、光の筋も蠢いている。
 しかし、その動きは命ある物の動きではない。
 ここにはもう何も無い。
 調査などする必要は無い。
 置いてあった封筒をブリーフケースへ入れた。
 これを読む必要は無い。
 いや、もう読むべきではない。
「寒い」君はそう呟いた。
 実際に寒い筈はない。
 日の当たらない場所とは言え、熱気が空を占め押し潰すように凝り固まっている。
 それに風も吹く様子も見せていない。
 だが君は体の芯から凍るような寒さを感じていた。
 悪寒ではない。純粋な寒さだ。
 集会場に入る前の高揚感も冷たく凍っている。
 無くなってはいない。ただ凍って停止している。
 上がりもしなければ下がる事も無い。
 君は冷たく停止していた。

 暗い屋内から、光に満ち溢れ醜いほど膨れ上がった屋外へと歩を進めた。
 日光が君を容赦なく殴りつける。
 君の目には白く輝く光景が突き刺さる。
 世界は何処までも白く、他には何も見えない。
 それでも足を止めず、勘を頼りに公園のある方へ歩いて行った。
 揺らぎのないしっかりとした足取りだ。
 この白い世界は何処まで続くのか。
 時が止まっているようだ。
 輝きは薄れ、輪郭が見え始める。
 君は足を止め、目蓋を閉じた。
 それでも白い世界は終わらない。
 残像が目に焼き付いている。
 白は少しずつ黒へと変わっていく。
 君はゆっくりと目を開いた。
 君は公園の入り口に立っていた。
 集会場の玄関からほんの数メートル、道路を渡ってすぐの所だ。
 体感ではかなりの時間歩き続けたように思えたが、実際には僅かな距離だった。
 白い世界は去っていた。まわりの風景がしっかりと輪郭を見せている。
 君は振り返り、集会場を見詰めた。
 まず集会場が有り、その前を道路が通り、道路を挟んだ向かい側に公園がある。
 集会場と公園は道路を軸として対称の関係にある。
 もしそうならば。
 君は再び集会場へと向かって歩いた。

                       *

 私はずっと公園の入り口を見詰めていた。
 公園へ入る場所は一カ所だけだ。
 入った者を見逃す事は無い。
 今日もこの公園へは誰も来てはいない。
 わざわざここに入ってくる酔狂な者はいない。
 この町に住む者なら公園には入れない。
 よそ者ならこの公園に気付く事さえないだろう。
 そして今、町の中にはよそ者はいない。私と彼等だけだ。
 この公園に入ってくる可能性があるのは彼等だけだ。
 正確に言えば、彼等の内のひとりだけだ。
 どんな顔をしてやって来るのか。
 私は苦笑した。
 それを知る事は無いのだ。

                       *

 さっきは遠く感じられた道程も、実際には数メートル程でしかなかった。
 君は道路を渡り、集会場の前に立った。ほんの数秒のしか掛からない。
 集会場の壁は板張りだ。長く風雨にさらされ古ぼけて黒ずんでいる。
 今も日光に照らされているが、この家は黒い。他の家よりも黒かった。
 君は玄関から右手の方へと向かった。
 集会場と隣の家との境目だ。
 そこには人がひとり通れる程度の隙間があった。
 その隙間は何処までも暗かった。屋根が重なり合い洞窟の様な体裁になっていた。
 外の白さに反比例して隙間の中は黒かった。
 君は躊躇無く隙間へと足尾踏み入れた。

                       *

 私は何ともなく他愛のない事に思いを巡らせていた。
 やる事などそれしかない。
 彼が来るまでここに座っているしかない。
 だが考える事ならいくらでもある。
 趣味の事、家族の事、友人の事、職場の事、知り合いの事、社会の事、世界の事。
 いくらでも拡散できる。

                       *

 隙間の中は黒一色で塗り固められていた。
 闇は物質であるかの様に君の行く手を阻んでいる。
 君は暗闇からの強い圧力を感じた。
 君はゆっくりと闇を押しのける様に進んでいった。
 隙間の向こうには光が見えない。
 隙間の向こう側は壁か塀になっているのだ。
 ほんの僅かな距離の筈だ。
 すぐに突き当たりに辿り着く筈だ。
 君は手を前に突き出して闇の中を探る様に足を進めて行った。
 だが何時まで経っても向こう側に着かなかった。
 何故こんなに時間が掛かるのか。
 君は焦りを感じ始めた時、手の先に何か硬い物が当たった。
 壁だ。
 君は手の感触を頼りに壁を確かめようとした。
 明かりを用意すれば良かったのだ。君は後悔していた。
 しかし何故僅かな光さえ差さないのか。

                       *

 音がした。
 公園の入り口からだ。
 入り口の扉から音がしている。
 がたがたと扉を揺する音がしている。
 私は身を正す様に座り直した。
 時は来たのだ。
 私はベンチの上で身構えた。

                       *

 闇の中では手の感触だけが頼りだ。
 君は突き当たりの壁と思われる場所を手で探った。
 作りが良くないのか、がたがたと音を音を立てている。
 いや、ここは扉ではないのか。
 君は手先に神経を集中させた。
 これが扉なら取っ手か引手がある筈だ。
 それがありそうな部分と探っていった。

                       *

 扉は音を立てて揺すられ続けている。
 だが入ってくる様子はない。
 私は扉を見詰めて身構えている。
 がたがたという音はまだ続いている。
 しかし何故さっさと入ってこないのか。

                       *

 手先に何かが当たった。
 君は両手でその何かを触ってみた。
 十センチ程の長さの木材と金具の感触がする。
 閂だ。こちら側から閂が掛けられている。
 単純な構造の閂だ。受け手の金具二つと木の棒だけで構成されている。
 君は木の棒を少し動かしてみた。
 棒は何の抵抗もなく動いた。
 そのまま木の棒を取り除いた。
 取っ手はない様だった。
 閂の金具に指をかけて揺すってみた。

                       *

 扉が更に大きく揺すられた。
 何を手間取っているのか。
 私はじりじりと焦りを感じていた。

                       *

 君は扉を引いてみた。
 しかし抵抗があるだけで開きはしなかった。
 君は扉をゆっくりと押した。
 今度は抵抗もなくゆっくりと開いていった。

                       *

 私は開いていく扉を見詰めた。
 こちら側へ──外に向かって開いていく扉を見ていた。

                       *

 君は扉を開くと、降り注ぐ光の眩しさに眼を細めた。
 白い光に視界を奪われた。

                       *

 私は闇の中に立つ人影を窺っていた。
 その姿は輪郭が曖昧に見えた。

                       *

 君は視界が戻るのを感じた。
 ここが何なのかはっきりと見えてきた。
 ここは公園だ。

                       *

 私は闇の中の人影が公園へと入ってくるのを見ていた。
 もう曖昧な人影ではない。
 はっきりとした実体を持った存在だ。

                       *

 君は公園の中のベンチにひとり座っている男を見た。
 黒いTシャツにジーンズを穿いている。
 頭から黒い袋を被り、その顔は見えない。

                       *

 私は公園に入ってきた人物を見た。
 手にブリーフケースを持った男だ。
 青いストライプのYシャツにスラックスを穿いている。
 頭から黒い袋を被り、その顔は見えない。

                       *

 顔に当たる部分には白い図案が描かれている。
 自らの尾を咥えた蛇、ウロボロスの絵だ。
 空の青さは更に毒々しさを増している。
 青の重さに耐えかねた様に、空は歪み撓んでいた。
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